賛否両論だったスピードラーニング
以前プロゴルファー石川遼選手が宣伝に登場して有名な英会話教材『スピードラーニング』。「教材CDを聞き流すだけで英語ぺらぺら」という宣伝文句を、新聞・テレビ・雑誌・インターネット等でよく見かけたものですが、なんと2021年8月31日でスピードラーニング事業は終了したと、この商品の企画・開発・販売を手掛けていた(株)エスプリラインが発表し、三十数年にわたるその歴史に幕を閉じました。
エスプリラインのサイトによると、理由は「諸般の事情」とありはっきりしませんが、最近はスマートフォンのアプリやWebなどのプラットフォームを利用した英語学習商材がどんどん増え続け進化も目覚ましいので、「この辺が撤退の潮時」と考えたのかもしれません。
ただ英語の音声の聴くという学習方法を一般大衆レベルで身近なものにしてくれたことは確かで、一つの時代の変化を感じる出来事ではあります。
スピードラーニングが無くなった今も、一つの残された問題があると思います。これはどの英語商材や書籍教材付属の英語音声にも共通するところです。
それは「英語の聞き流しって本当に効果あるのか?」ということ。これは英会話の教室の内外で私自身よく聞かれる質問でもあります。講師も含め英会話業界関係者は「聞いてるだけで話せるようになるわけないでしょう」とバッサリ切り捨てることが多かったと思います。それでみんな英語が話せるようになったら英会話学校要らないですもんね。一方であれだけ売れたということは、やはりそれなりに役立つ教材だった、という声もあります。
ということで、この機会にあらためて「英語の聞き流し」について考えてみたいと思います。
英語は本当に聞き流すだけで話せるようになる?
まず例として「スピードラーニング」の教材を取り上げてみましょう。
教材の中身は、場面別のダイアローグ収録されたCDとスクリプト(英文・和訳)冊子です。音声は、英文が読まれた後に日本語訳が読まれます。そのため、スクリプト冊子を読まなくても、CDをかけて聴くだけでいいのです。今なら、CDをパソコンに落として、iPodのようなポータブルプレイヤーに移して聴けば、どこにでも持ち歩けて、いつでも教科書を持ち歩かなくても気軽に勉強できるのが便利な点でしょう。
ただ、この方式で、広告にうたわれていたように、本当に英語が話せるようになるのでしょうか?
実際に使った人の声はどうでしょうか?
宣伝広告に載っている体験者はさておき、僕の身近なところにスピードラーニングを使っていた人がいたので、話を聞いてみました。
筆 者:「スピードラーニング使っていかがですか?」
使用者:「うーん、あんまり身に付かないねえ」
筆 者:「何回も繰り返し聴いてますよねえ?」
使用者:「そうなんだけど、なかなか。結局何言っているか分からないところが多いし・・・。日本語の訳も流れてくるけど、英文とつながらないんだよね」
スピードラーニング自体には、ちゃんとスクリプトブックがついているが、マニュアルには、あくまで「聞き流すだけにしてください」とあるため、たいていの人は、そのまま本当にCD音声をかけ流すだけになります。
「聞き流しだけで英語が話せるようになる」というのは、過大広告なのか? そのへんを分析してみたいと思います。
英語理解力の面から
すでにある程度英語力がある人なら、英文が聞き取れるでしょう。そして続けて日本語訳が流れてくれば、意味もほぼ理解できる。それを繰り返し聞いていれば、最初聴いたとき、100%聞き取れなくても、徐々に聴けるようになるかもしれない。文章を覚えるためには、意味のしっかり把握できる英文を何十回と聞き込む必要がある。逆に言うと、同じ英文を30回も50回も聴いていれば、例文もまるごと覚えてしまえるでしょう。
では、英語初心者の人ならどうでしょうか。「何とかこれで英語が話せるようにならないかなあ」という切実な気持ちが強いのがこのレベルの人達だろう。私が取材した人も話していたように、まず第一に、英文が十分「聴けていない」状態である場合、残念ながら身につくところまでは、いかないことが多いかもしれません。
英語のリスニング学習として、とにかく何でも聞きまくって「英語のシャワーを浴びる」という方法もあります。ただこのやり方だけでは、なかなか英語が身につくところまでは至らないかもしれません。やはり「身につける」ためには、聞き流すだけではなく、しっかり教材のスクリプト(英文)を活字で読んで、読まれる英文と照らし合わせて何が話されているのかを確認し、単語一つ一つの意味と文法的な面も含めてしっかり理解することも大切です。スピードラーニングの教材冊子には、英文と和訳はついていますから、それをしっかり読むことが
必要です。
聞いて分かるのと話せるのは別
さて肝心のスピーキング力面です。英語を聴いて理解出来るからといって、それが自由に話せるとは限りません。実際、TOEICで高得点とれるのに英語が話せない人も少なくありません。極端な場合、TOEIC800点以上取れるのに、口頭でのコミュニケーションになるとまるでダメ、という人もいるようです。
英語が口から出てくるようにするには、やはりそうした訓練をすることが求められます。実際どんな英会話スクールでも、教室で英語のCDを流してじっと黙って聞かせるだけ、などというところはありません。話す練習をしないと、スピーキング力は絶対につかないからです。
海外留学して日本に戻った人の例を挙げると分かりやすいかもしれません。例えばアメリカに長期留学して帰ってきたとしても、日本国内で英語を話す機会がほとんどないと、英語を聴いて理解する力があっても、だんだんスピーキング力が衰えてきます。ましてや、最初から英語のスピーキングをほとんど経験していない人が、聞くだけで話せるようになるのは厳しいでしょう。
ただ、初心者でも教材音声の中に印象に残るフレーズ箇所が一部あって、たまたまそれを覚えていて、外国人と話すときにひとこと使えた、というようなことはあるかもしれません。
英語が既にある程度話せる人なら、スピードラーニングを聞き流しているだけで、知識は増えますから、スピーキング力にプラスにはなります。広告に出ている石川遼選手の場合、アメリカに何度も行き、長く滞在し現地の人と話す機会もあるでしょうし、それ以前にどこか英会話スクールに通っていた可能性が高いですから、スピードラーニングを聞き流すだけで英会話力が向上することはありえます。
こんな風に書くと、「スピードラーニング買わなくてよかった」と思う人も出てくるかもしれないし、既にスピードラーニングを購入している人は無駄なものを買わされたように思うかもしれませんが、そんなことはないと思います。『スピードラーニング』も含め、この教材をしっかり活用して、本当に英語が話せるようにすることは可能です。
その方法とは・・・
「ええっ?聞き流すだけじゃあダメなの?」それでは、せっかく買った音声教材をフル活用して、英会話を身につけるには、どうしたらいいか? 教材のマニュアルに載っていない、これなら絶対身につく方法を以下でご紹介します。
1.とりあえず聴く
まず最初は、音声を聴いてみて、どのくらい英語が聞き取れるかに挑戦。この教材は、英語が流れたあとに日本語訳が収録されているので、ダイアローグの意味自体を把握するのは問題ないでしょう。
英文と日本語訳が、しっかり頭のなかでつながる人は、そのまま何度も繰り返して聞いたら良いと思いますが、英文に対して日本語文がしっくりこない人・英語自体があまり聞き取れない人は、そのまま聞き続けても収穫が少ないので、ある程度で見切って、次のステップに移ってください。
2.スクリプトブックを確認
教材冊子であるスクリプトブックにしっかり目を通す。知らない単語は和訳を手が手がかりに、どの単語がどの意味に当たるのかを確認する。あるいは辞書を引いてみる。そして英文と和訳をあらためて対照してしっかり意味を理解します。英語が音として聞き取れていない人は、スクリプトの文字を追いながら音声を聴いてみるとよいでしょう。
3.音読
英文を声を出して読みます(音読)。発音やイントネーションは、音声を聴いて、なるべくその通りに読みます。単語がしっかり聴き取れないときには、辞書を引いて発音を調べて下さい。初心者には英語発音の聞き間違いや思い込みがあるので、発音記号も調べるのが理想です。
4.音声を繰り返し聞き流し
ここではじめて、教材音声を聞き流す下地ができたので、何度も繰り返して聴いてください。CDをそのまま聴いてもいいですが、スマホに入れて持ち出して聴くのが便利でしょう。
注意:だらだら聴かない
スピードラーニングのCDの内容が易しいと感じる人以外は、CDを最初から最後までだらだらならしっぱなしにするのはやめたほうが良いです。内容をマスターする気で聴くならば、一つのダイアロークだけをリピート機能を使って、何度も繰り返して聴くのがコツです。数十回単位で聴いてはじめて身につくものだと思って下さい。
また、流れてくる英文にあわせて、実際に文を口ずさんでみるのも効果的です。流れてくるものにそのままついて英文を口にするやり方はシャドウイングと呼ばれる学習方法で、英文が流れたところで、いったんCDを止めて英文を口にするやり方は、リピーティングと呼ばれる方法で、ともに非常に効果があります。
5.復習チェック
繰り返しリスニングした後は、また自宅などで、あらためて聴き取れなかった箇所があれば教材冊子で再確認して下さい。また復習として、英文を音読してみてください。英文は一文づつ、すらすら言えるようになるまで何度も繰り替えして読んで下さい。初めて読んだときより、すらすら言えるようになっていると思います。
こうした練習を経て、最後には、なにも聴かない状態でも、頭の中で英文が流れはじめたらしめたもの。次のダイアローグに進んで、同じようなプロセスで学習を進めて下さい。
学習素材は自分がマスターしたい内容なら何でもOKです。
ただ、上記で述べた通り、ある程度既に英語力ができる人なら、本当に聞き流すだけで、知識が増し、そのまま話すときの力になるとは思いますが、やはり自分の口から発生したほうが良いので、シャドウイングとか、そういった手法を取り入れるのも良いでしょう。