「食べるだけで英語がペラペラ・・・」・・・という食べ物は、残念ながら存在しない。でも、英語の上達を考えたとき、食べ物から入るというアプローチもあるのではないでしょうか。食べるものの種類によって、人の性質も形作られてくるというのは事実のようなので、語学の上達と食べ物とは関係があるのでは、と考えてもおかしくないでしょう。
例えばこれは、数年前に亡くなられてしまったが、世界的な英語学者であり、評論家としても影響力のあった元上智大学名誉教授の渡部昇一氏が経験した例です。
渡部氏は若い頃、1950年代にドイツに留学し、古英語の研究に打ち込んでいた。英語やドイツ語の原書を読むにあたって、「本を書いた人と同じものを食べることも重要」「ドイツ人が書いた本を理解するには、ドイツ人の食べ物を食べてみることも必要だ」と感じ、もともと肉は嫌いで食べられなかったにもかかわらず、現地流に合わせた食事をとるようにしていたと述べている。
ドイツに渡部氏が渡ったのは25才の時。日本では終戦直後の栄養状態の悪い時代だったので、乳製品や肉が豊富にあるドイツの豊かな食生活に「同じ敗戦国でこうも違う物かと。」と驚いた。渡部氏は毎日、チーズをたっぷりパンにのせ、豚肉を食べ、当時の日本人としては非常に贅沢な食生活を送ったという。その成果か、渡部氏は、ドイツで論文を発表し、それが現地で出版されるという業績を若くして成し遂げたのだった。
「石原式健康法」でテレビなどでも有名で、『医者いらずの食べ物辞典』の著者である医学博士の石原結實氏も渡辺氏との対談で、「ドイツでの”食”のご体験も、やはりヨーロッパ人的な血に変わって、さらに脳の状態もヨーロッパ人的になっていかれたのではないでしょうか」と渡部氏の体験を分析し、食物と脳の関係について語っていた。
ちなみに、渡部氏によると、そのドイツ留学期間中、25才から28才にかけて身長が5センチも伸び、帰国して留学前の洋服を着ようと思ったら「つんつるてんになっていた」そうだ。(上記引用元『病気にならない生活のすすめ』渡部昇一・石原結實共著・PHP文庫)
今から身長が伸びるかどうかはわからないが、英語を学ぶ人も、「ちょっと英米人の発想についていけないな」とか思ったときには、彼らの食べているものを積極的に導入してはどうだろうか。現在の日本では朝はパンとバター、肉にソーセージなんて当たり前なので、その意味では昔の人より良いが、その気になれば、もっと食を西洋風にしてもいいかもしれない。
僕は、日本の大学を出てからオーストラリアに1年住んでいて、着いた当初、オーストラリア人の英語がわからなくて大変苦労した。ご当地には、ベジマイト(Vegemite)という瓶詰めの発酵食品がある。味噌とバターを混ぜたような微妙な味で、初めて口にしたとき、下がしびれるような刺激を感じ、その風味も嫌で、二度と口にすまい、と決めた。
帰国が近づいて来たころ、その頃にはオーストラリア英語にもずいぶん慣れたのだが、たまたまベジマイトを食べる機会があった。そのときは、口にする前に、なぜか既にベジマイトを食べられるような予感がした。想像通り、食べてみたら、おいしく感じ、その塩っ辛さが、体にしみてゆくような感覚を楽しむことさえできた。オーストラリアに英語に慣れるぐらい現地に溶け込むと、食べ物のほうも体が容易に受け付けるようになっているのだろう。
やはり人間は食べ物。「日本語がいつまでも話せない外人には味噌汁と梅干しを食わせろ」とは言わないが、食べ物って、以外と大切なんですね。
こうして考えると、世界のいろいろな国の人とつきあい、英語でコミュニケーションをとるのに、食べ物から入るというアプローチも有効だと考えられますよね。試してみて損はないでしょう。
ピザを食べるだけでイタリア語や英語が話せるようにはなりません。あくまで語学を勉強していることが前提です(笑)