通訳者に頼り切る危険

大谷翔平選手の銀行口座に不正アクセスした水原一平元通訳のニュースが連日報道されています。

被害にあった大谷選手には気の毒ですが、彼も将来メジャーリーグに行くつもりだったならば、本業の野球はもちろんですが、英語も日本にいるうちにしっかり勉強して準備をしておくべきでした。

今は彼も渡米してから6年以上経っていますから、かなり英会話も上達したそうですが、やはりメジャーリーグ入りする前にある程度の英語力に到達しておくべきでした。お金は持っているのだから、一流の英語講師や学習コーチなどを雇って勉強しておけば、まだ若いのだから、英検の1級は難しいかもしれませんが、準1級ぐらい、あるいはTOEICの700点程度の英語力は身につけられたはずです。

それぐらいあれば、日常会話はもちろん、銀行関連の基本単語だけ押さえておけば、銀行の口座を開設も、通訳無しで十分行えるはずです。
もし念のために通訳を同行させるにせよ、自分も英語で十分理解しながら手続きを進められたはずです。

なんだか厳しい事を言っているようですが、大谷選手はいわゆるスポーツ馬鹿ではありません。

彼は野球のために花巻東高校のスポーツコースに進みましたが、中学時代の成績からいうと、岩手県内トップ10の進学校に入れるぐらいの成績は残していたそうです。きっと地頭は良いのだと思います。

多くの人が陥りがちですが、「現地に行ったら英語やろう」というのは、今や時代遅れ。日本国内でも十分英語学習ができる環境が整っていますから。やはり現地に渡航する前にきっちり勉強しておくべきです。

渡航直後でも大切な手続きがたくさんあります。通訳者に何もかも頼り切りだと、今回のようなことが起きる原因を作ってしまいます。

僕自身の話ですが、以前、親しい友人が海外に移住して会社を設立するので手伝ってほしいと頼まれたことがありました。その国は旧英国領で英語が共通語として通じる国でした。彼は英会話は全くできませんでした。僕は「今から勉強したほうがいい」とアドバイスしましたが、「俺は自分専属の通訳を雇うからいいんだ。仕事だけでなくプライベートでも常に現地人の通訳を使う」と言って、英語は全然やる気無しでした。

結局彼の家庭の事情等もあって、その計画は流れてしまいましたが、本当にやっていたら、仮に商売は上手くいったとしても、おそらくだまされたり、カネを持ち逃げされたりという被害にあった確率は高かったでしょう。

「本当に通訳者を上手く使うためには、自分自身語学の素養が必要」というのを聞いたことはありませんか?

英語が全く話せない人の多くは、英語を話す人の頭の中はブラックボックスのようなものと考えているのでしょう。右から日本語を入力すると、自動的に左からそのまま自分が言いたいことが英語で出てくると思っているような印象を受けます。

そもそも、通訳者は場合によっては、その人のいうことを意図的に変えて伝えることがあります。

僕も以前通訳をしていて、相手に失礼なことを言っている場合などは、伝わり方がマイルドになるように言い換えたこともありました。相手にもよりますが、カジュアルな場面で、あまりにくだらない苦情や注文をお店やホテルに言っているときは、適当にあしらいました。

通訳者に頼り切ることの危険性については、今回の水原一平通訳の事件で、日本中の人が思い知ったのではないかと思います。

母国語の日本語を共有して信頼している日本人の通訳者ですらそうなのです。ましてや、外国の人(別に外国の人に偏見があるわけではなく一般論として)だと、なおさら危険度は高まります。

以前、英国BBCの番組で、フランス元大統領の故フランソワ・ミッテランの通訳をしていた女性の話を聞いたことがあります。

ミッテラン氏は、英語は話せなかったはずですが、どうもその通訳の女性によると、大統領の表情や様子などを観察していると、実は英語を理解していたのではないか、と思わせるようなふしがあったそうです。結局大統領本人にそのことを確認する機会はなかったそうです。

もちろん分かっていようがいまいが、自国の国家元首の通訳者なら真面目に通訳するでしょう。

でも普通の商談や観光レベルだと、通訳者が勝手に自分に都合の良いように話を持っていく可能性はあります。

そんな時「ひょっとしたらこの人、何割かは話が分かっているのでは」と相手に思わせると、いい加減な通訳はできなくなるので、効果的だと思います。

仕事であれ、プライベートであれ、海外に行くなら、やはりある程度英語力を付けてくことが自分を守ることに繋がります。