様々な分野で英語を使って活躍する人にインタビューするシリーズです。第1回目は東京オリンピック・パラリンピックで、競技会場や選手村などの大会関係施設での競技運営・参加選手のサポートをボランティアとして務めた井上陽子さんにお話を聞きました。
聞き手:ライフスタイルE 中島 理
大学時代1年間アメリカ留学・英検1級
職歴は外資系航空会社のグラウンドスタッフ、
現在は高校の英語教師
——東京オリンピックのボランティアに応募したきっかけは?
井上:高校では陸上部で、今もマラソンに出たりと、スポーツは大好きなんです。今回のオリンピックは世界中から様々な競技のトップアスリートが日本の首都・東京に集まる一大イベント。今後日本でオリンピックが開催されることは、私が元気で生きている間は(笑)ないであろう、またとないチャンス!と思い「これはやるしかない」という気持で、自分もその中で何らかの役割を担えたらいいな、と思い応募しました。
——担当したボランティアの仕事内容を教えてください?
井上:オリンピックでは国技館で行われたボクシング競技の運営に関わる仕事。通訳者というわけではないのですが、国際イベントですので、仕事をスムーズにすすめるには英語は必須でした。パラリンピックでは選手村でリベリア選手団のサポートをしていました。
——オリンピックボランティアに備えて、英語に関しては何か事前の準備というのはしましたか?
井上:英語を改めてしっかり勉強し直そうと思い、仕事の合間に通訳学校へ通いました。当然単語やフレーズも覚えたし、シャドーイング・リプロダクションやディクテーション。いろいろなテーマの内容を訳す訓練。背景知識も頭に入れました。あとは正しい日本語。でも、そもそも聞いたことをすぐ忘れてしまうので、通訳には向いてないかな、と自分で思いました。(苦笑)
——大変だったことや困ったことは?
井上:長い期間いろいろあって、ここではお話ししにくいところもありますが(笑)。いくつか挙げるとすると、選手村の中の移動。敷地がすごく広くて、何かちょっとしたことを調べるために建物を行き来したんですが、炎天下を歩き回るのは大変でした。
英語に関して言えば、リベリア人の英語は、かなり訛りが強くて、すごく聴きづらく苦労しました。何回聴き直しても聞き取れないということも少なくなく、最後には筆談(笑)。
リベリアはアメリカで解放された黒人奴隷だった人達が造った国で、英語は公用語なんですけど、発音で音が脱落したりとか現地の言葉と混ざった独特の言い回しとかがあるので、ネイティブスピーカでも難しいみたいですね。終わってから思ったのですが、事前にインターネットでリベリア英語の訛りについてとか、調べて対策をしておけばよかったかもしれません。
——やって良かったと思った瞬間は?
井上:ボクシングには全く興味がなかったけど、役割をしているうちに、いろいろな選手に声をかけたり、近くで観ることで愛着が湧いて楽しくなったこと。金メダルを取った入江聖奈選手のサポートをしましたが、ちょうど金メダルの瞬間を間近で見られて感動しました。また、ほぼ絶対入れない選手村に入れたし(笑)、そこで様々な障害を持った人が生き生きと過ごしているのを見て、自分の障害者への理解が深まりました。オリンピックもパラリンピックも自分の視野を広げてくれたと感じてますし、他では経験できないような、とても貴重な体験をさせていただきました。
——今回の体験をもとに、英語という意味で、これからの目標みたいなものはありますか?
今は高校の英語の先生をしていますが、やっぱり教える先生自身が英語でいろいろなことを体験して生徒たちに、教科書を超えて、英語でのコミュニケーションが取れることの喜びやの楽しさを伝えてあげることで、「英語って役に立つんだ」「こんないいことがあるんだ」と彼らの好奇心を刺激する、みたいなことも大切なんじゃないかって思います。
ですから、今回の自分の経験を、生徒たちに伝えて、少しでも動機付けの役に立てればと考えています。